ファッションには、変わらない判断の軸と、時代とともに変わる格好よさがあります。大人っぽさと気軽さのバランスを土台に、形や色、組み合わせを少しずつ変えていきます。同じ服でも、新しい表情を見つけられます。この変化を楽しめるところに、ファッションの面白さがあります。原則とルールを身につけたら、次はそれを使って、トレンドに合わせたアレンジを楽しんでみましょう。
原則は、着こなしを変えるときの判断基準になる

僕がお伝えしている大原則は、「ドレスとカジュアルのバランス」です。スーツに使われるような大人っぽい要素と、気軽でラフな要素を組み合わせ、キメすぎず、崩しすぎない街着を作ります。この考え方は、トレンドが変わっても共通しています。
ボトムスから揃え、形をI・A・Yで整え、色をモノトーン+1色に抑えます。ここまで説明してきたルールは、そのバランスを作りやすくするための方法です。まず基本を実践して、全身がどう変わるかを確かめます。慣れてきたら、自分なりに解釈して遊んで構いません。
たとえば「ドレス7:カジュアル3」という比率も、基本をつかむための目安です。友人と気軽に遊ぶ日と、レストランへ出かける日では、求められる大人っぽさが異なります。そこに時代の気分も加わります。流行がよりドレスへ向かえば、配分を少しドレス側へ動かすほうが、自然に格好よく見えることもあるでしょう。
変わらないのは、全身でバランスをとるという判断の軸です。具体的な形や着方まで、ずっと同じに固定する必要はありません。基本を知っていれば、何を変えたときに、どんな印象が強くなるかを考えられます。原則を覚える意味は、応用する場面でも生きてくるのです。
トレンドは、「少し違う」が生む新鮮さ

では、なぜトレンドを意識する必要があるのでしょうか。
昔の写真を見ると、服装だけで時代を感じることがあります。当時は格好よかったはずの服が、今見ると少し古く感じられます。これは、僕たちが格好よいと感じる価値観が、時代とともに変わっているからです。
おしゃれは、周囲との関係の中で評価されます。皆が無地を着ているところに柄が一つ入れば、それが新鮮に見えます。細身の服が広まったところに少しゆとりのある形が出てくれば、そのリラックス感が魅力になります。周囲と違う部分があるから、目に留まり、おしゃれだと感じられるわけです。
ただ、その新しさも広まれば、次第に見慣れたものになっていきます。すると、また少し違う形や着方が求められます。この繰り返しがトレンドを作っています。ずっと同じ服、同じ組み合わせで、いつの時代も新鮮に見せ続けるのは難しいのです。
流行は繰り返すともいいますが、過去と全く同じものが戻るわけではありません。似た服でも、形や装飾には変化があります。昔流行ったものを知っている人も、今提案されている服との違いを見てみてください。そうすると、見覚えのある服の中にも新鮮さを見つけられます。
ここで必要なのが、「客観性のある差別化」です。言葉は少し難しいですが、他人にも理解できる範囲で、周囲との違いを作ることを指します。皆が首の詰まった丸首を着ているなら、襟元を少し開けた形が新鮮に見えることがあります。ただし、周囲との違いを大きくすれば、その分おしゃれになるとは限りません。変化には加減が必要です。
トレンドを学ぶと、その「少し違う」がどちらへ動いているかを理解しやすくなります。細かい流行品の名前を覚えるだけで終えず、形がどう変わったのか、どんな色や素材が新しく感じられるのかを見てみてください。その時代の気分に着こなしの理屈を当てはめていくと、流行も自分の服装へ取り入れやすくなります。
変える場所と、整える場所を考える

実際にアレンジするときは、全身のどこを変え、どこでバランスをとるかを考えてみてください。
そこで使えるのが「3分割コーディネート法」です。全身をトップス・パンツ・靴の3か所に分け、それぞれがドレス寄りか、カジュアル寄りかを見ます。基本は2か所をドレスにして、残る1か所にカジュアルを入れると、バランスをつかみやすくなります。正確に点数や割合を計算するものではありません。
たとえばジャケットとスラックスに、スニーカーを合わせます。トップスとパンツで大人っぽさを作り、足元に気軽さを加えています。トレンドに合わせて服装を変えるときも、こうして全身を見れば、変化を加える場所と、大人っぽさを保つ場所を考えやすくなります。
さらに、一着を選ぶときには「デザイン・シルエット・色と素材」の3要素で見ます。こちらは全身の3分割とは別です。全身のどこで調整するかに加えて、一着のどの要素で調整するかも見ていきます。
ワイドパンツなら、太いシルエットはカジュアルな要素です。でも、スラックスのデザインで、黒く、ツヤや落ち感のある素材なら、大人っぽさも備えています。同じ太さでも、色落ちしたデニムとは印象が違います。形で気軽さを出しながら、デザインや色と素材で整えます。これも大原則に沿ったバランスの取り方です。
形の見方がわかると、「大きい服」という言葉の中にも違いが見えてきます。肩幅や身幅にゆとりがあっても、丈が短ければ、トップスの面積はコンパクトになります。そこに太いパンツを合わせれば、上が小さく、下が大きいAラインを作れます。基本を使いながら、丈や幅の組み合わせを変えられるのです。
上下にゆとりがあるだけで、必ずI・A・Yから外れるわけでもありません。幅だけでなく、丈を含めた上下の面積差を見てください。それでもあえてメリハリをつけず、上下をゆったりさせたいなら、ジャケットやスラックスなどの大人っぽいデザイン、落ち着いた色や素材でバランスをとる方法があります。
体をきれいに見せるために形を整える方法も、形を崩してカジュアル感を加える方法もあります。どちらも、全身のドレスとカジュアルのバランスを考えて使うものです。基本と違う形を見かけたときも、「ルールに合わない」で止まらず、ほかの要素がどう働いているかを見てみましょう。
色柄や装飾にも、同じ考え方が使えます。たとえばウエスタンシャツは、刺繍や切り替えなどの装飾が特徴ですが、光沢のあるウールを使い、装飾までモノトーンにまとめたものなら、大人っぽい印象に収まります。スラックスに合わせれば、装飾を楽しみつつ、きれいにまとめやすくなります。流行の要素を、ほかの要素と組み合わせて調整しているわけです。
僕がジャケットとベスト、パンツを揃えたスーツを企画したときも、フォーマルな要素を残しながら、形は少しゆったりさせました。中にニットを着ることも想定した、正統なスーツより少しラフな作りです。さらに光沢が強すぎるとパーティーの服に見えるので、そこも加減します。クラシックな格好よさを残し、普段着としての気軽さを作るために、形や素材を調整しています。ドレスな服を少し崩す方向にも、アレンジはできるのです。
同じ服でも、組み合わせで表情は変わる
トレンドを意識するというと、毎シーズン服を買い替える話だと思うかもしれません。でも、常に新しい服を買い続ける必要はありません。おしゃれは「服そのもの」と「着こなし」の二つで決まるからです。
新しさのある服は、着るだけでも変化を出しやすくなります。一方、手持ちの服も組み合わせによって生かせます。服単体の新鮮さが薄れていれば、その分、着こなしの工夫は必要になりますが、「以前買った服だから、もう使えない」と一律に決めなくてもよいのです。
たとえば、シンプルなバッグにチャームをつけ、装飾や個性を加える楽しみ方があります。バッグ自体は上質で落ち着いたものでも、飾りを加えれば表情が変わります。基本のアイテムを残しながら、変化をつける方法です。服でも、気になる襟をストールで隠したり、お直しで形を変えたりと、生かし方はいろいろあります。
長く使いたいなら、流行の要素が極端に強いものと、ベーシックに近いものの違いも見てみましょう。同じワイドパンツでも、太さを強烈に主張するものと、落ち感によって広がりを抑えたものでは印象が違います。その時期の大胆な形を楽しみたいのか、着方を変えながら長く使いたいのかを考えてみてください。自分が求めるものによって、選び方も変えられます。
トレンドの背景には、その服の歴史や文化もあります。何が流行しているかに加えて、なぜその形や装飾が求められるのかを知ると、服の見え方も変わります。服を買うことだけに楽しみを限らず、そうした背景を知り、着方を考えることも楽しんでみてください。
真似した先で、自分の好みを加えていく

最初から、すべてを自分で考えようとしなくて大丈夫です。まずは、おしゃれだと思う着こなしを真似してみてください。次に、どこでドレスとカジュアルのバランスをとっているかを確かめます。理由がわかったら、そこに自分の好きな服や色、形を少しずつ反映させていきます。僕はこの順番を勧めています。
参考にした服装と同じものを揃えて終わるより、「なぜ、この組み合わせで成り立つのか」がわかれば、アレンジの幅も広がります。一つの着こなしから理屈を覚え、次の組み合わせを試せるようになります。自分の好みを生かすときにも、原則が役立つわけです。
流行をどれほど強く取り入れるかは、自分で選んで構いません。まずは自然に見える範囲の変化を試し、慣れてきたら、もう少し遊んでみてください。同じ服でも、組み合わせを変えたら違う格好よさが見つかります。飽きていた服に、また着たいと思える着方が見つかります。そうして違う楽しみ方を探していくことも、ファッションです。
原則とルールは、身につけたあとも繰り返し使えます。時代の気分を知り、自分の服装を見直して、少しアレンジします。基本を覚えたら、その先は好きな服を生かしながら、着こなしを少しずつ変えてみてください。
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